印紙税の落とし穴 ~前篇~

印紙税とは「契約書」や「領収書」などの文書に対して課される税金であり、これらの文書に収入印紙を貼付して消印することで納付します。今日は印紙税について少し掘り下げてみたいと思います。

 

1.印紙税の全体像

印紙税は文書に課税されるものですが、課税されるかどうかは、その文書のタイトルや主題にとらわれず、「課税事項がその文書に書かれているか否か」で判断されます。したがって、例えば「念書」というタイトルであっても、金銭消費貸借ついて書かれていれば、消費貸借について書かれたものである以上、1号の3文書に該当して課税対象となります。また、「売買契約書」というタイトルであっても、実態が保守を請け負うという内容であれば、売買契約ではなく請負契約として2号文書に該当することになります。つまり、課税対象となる文書かどうかは、その文書の実態で判断されるということです。

また、同じ領収書を2枚作った場合には2枚とも印紙を貼付しなければいけません。印紙税は課税文書に対して課される税金なので、何枚作ろうとも全てが課税対象となります。したがって、例えば予約契約書や仮の領収書であっても課税対象になるので注意が必要です。

 

2.問題となる課税文書

印紙税が課される文書は、全部で20種類ありますが、実務上問題になりやすい文書は、1号文書、2号文書、7号文書、17号文書の4種類です。

【 1号文書 に関する留意点 】

1号文書とは不動産などの譲渡契約書で、下記のような契約書が課税の対象となります。

印紙税コラム1

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なお、印紙税における契約書とは「意思の合致を示す文書」の事を指しますので、「申込書」や「注文書」、「覚書」というタイトルであっても、契約書として課税される場合があります。実務上、「申込書」や「注文書」は問題になりやすく、申込書は受託の意思がなければ意思が合致したとはならないため、通常は契約書に該当しないのですが、例えばその申込書を提出した時点で自動的に契約が成立することとなっている場合などは「契約書」として課税されるリスクがありますので注意が必要です。また、「注文書」も控えに「~承りました」というような、「意思の合致」を示すような文言が入っている場合にも、契約書として課税されるリスクがありますので注意が必要です。なお、このような契約書の概念は1号文書だけでなく、ほかの課税文書にも共通する考え方です。

そのほか、誤りが多いので、1号の1文書、および1号の2文書について若干補足します。1号の1文書の(注)にある「無体財産権」とは、範囲が広いと思われがちですが、実は限定列挙となっているので、ソフトウェアなどは含まれません。また、1号の2文書は、土地の賃借権の設定に対して課税されますから、建物の賃借権の設定は含まれません。加えて、土地の賃借権の設定にかかる印紙税は、賃料ではなく、権利金等の金額をもとに印紙税額を判定しますので、権利金等の記載がないものは「契約金額の記載のないもの」に分類され、貼付する印紙税額は200円となります。山形では権利金の金額を設定することは少ないと思います。

これらの契約書は税務調査において調査されますが、確定申告においても注意が必要で、例えば、所得税の確定申告において、住宅ローン控除を受けるために契約書写しを送付する場合、または消費税の還付申告をするために契約書写しを送付する場合などには、これらの契約書に印紙が貼付されているかどうか税務署でチェックが入りますから注意しなければなりません。

【 2号文書 に関する留意点 】

2号文書とは請負に関する契約書で、下記のような契約書が課税の対象となります。

印紙税コラム2

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2号文書はグレーゾーンが多く、実務上、非常に判断に迷うことが多い文書です。「請負契約」に近い用語として「委任契約」がありますが、「委任契約」の場合は印紙税がかかりません。つまり、記載されている内容が「請負なのか委任なのか」という峻別に非常に迷うのですが、大きな判断基準としては、「成果物の有無で判断する」ことになります。例えば「○○を納品する」「○○を完了させる」など、成果物が明確であれば請負契約になります。一方、「顧問契約」など、契約完了時点が明確でない契約については、「委任契約」として課税の対象外となることが多いと思います。しかし、「顧問契約」であっても、報告書の提出義務があるものは報告書が成果物として判断され、請負契約になる場合がありますので注意が必要です。このように、2号文書は判断に迷うことが多いので、多少面倒ではありますが、契約書のひな形を税務署に持参のうえ判断してもらうのが確実です。なお、2号文書には、軽減税率が定められていますが、これは、建設工事の請負だけに認められたもので、建設工事以外のその他の請負契約には通常の印紙税が課せられますので注意が必要です。

 

7号文書、17号文書についてはまた次回お話しします。

(担当:税理士  社会保険労務士 都筑 正之)

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